入居者インタビュー 鶴甲団地
近年、空室の多さや住人の高齢化が問題となっている団地物件に一石を投じる“おこのみ賃貸”。
好みの壁材・床材を選べて、DIY・カスタマイズも可能なリフォーム賃貸物件を企画し、入居者の自分らいしい暮らしと、物件オーナーの空室改善の両方を叶える取り組みとして、神戸を中心に注目を集めはじめている。
企画するのは、株式会社フロッグハウス。設計・施工だけでなく、物件の企画・発信・運営までを手がける“ニュー工務店”だ。
今回はおこのみ賃貸の実際の住み心地を知るべく、神戸市灘区の山際に位置する鶴甲団地にて、入居者・フロッグハウス・オーナー(神戸すまいまちづくり公社)の三者にお話を伺った。
神戸市灘区の鶴甲団地(昨年冬の様子)
敷地内の桜がよく見える、神戸大学の学生用ルームシェア物件“鶴甲ハウス”のウッドデッキでお話を伺った。
賃貸なのに、わが家のように愛着を感じます。
ー こちらに引っ越されたきっかけについて教えてください。
もともと住んでいたアパートの取り壊しと、娘の進学が重なり神戸への引っ越しを検討している時に、鶴甲団地で10年ほど暮らしている友人からこの場所を教えてもらいました。
ー いちばんの決め手は何だっだのでしょうか。
眺望が理想的だったところです。せっかく神戸に引っ越すのだったら眺望がいい場所に住みたいと思いました。
ー 引っ越されて2週間とのことですが、実際に暮らしての感想はいかがでしょうか。
入居前に床材や建具を選んだり、壁を塗らせてもらったりしたので、引っ越してまだ2週間ですがしっくりきていて、賃貸なのに自分の家のように愛着がわいています。
築49年と聞いていたので少し覚悟していたのですが、古さを全く感じさせない内装で娘ともども大満足です。
リビングダイニングの壁の一面は、入居者が自由に改装できるフリーウォール。当入居さんはDIYで漆喰を塗った。(他にもペンキで仕上げたりマグネットペイントを施す入居者もいるそう)
お風呂場横の扉の色は入居さんセレクト。
床材・壁材に入居者の好みを反映できるのがおこのみ賃貸の特徴。写真は入居さん宅のリビング。
玄関からリビングダイニングへの扉の色と床に貼るシートも入居さんさんがセレクトしたもの。
棟によって違いはあるが、鶴甲団地の最上階からは市街地と海が望める。(写真は別棟。昨年冬の様子)
フロッグハウス代表の清水大介さん(左)神戸すまいまちづくり公社の山本誠さん(右)
ー 鶴甲団地のおこのみ賃貸は、どのように企画したのでしょうか。
清水さん:フロッグハウスは団地の賃貸物件を扱うことが多いのですが、単にクロスを張り替えるだけのいわゆる原状回復だけでは入居者が来ないことがわかってきたんです。
その理由を考えた時に、内装が画一的すぎてつまらないし、間取りも現代の生活に合っていないのではないかと思いました。和室3部屋とか今では考えられないですよね。
内装をアップデートしつつ好みの建具等も選べたら団地もまだまだイケるはず!と思い、4年前から企画し始めました。神戸すまいまちづくり公社さんには約1年前(2016年)から採用していただいて、これまでに5戸で入居者さんが決まりました(2017年4月現在1戸工事中)。おこのみ賃貸の総実績は17戸ほどになります。
山本さん:先ほどの感想をお聞きして、まさにその通りというか、企画に共感してもらえているんだと実感しました。オーナーとしては万人受けする内装にしがちですが、おこのみ賃貸はいい具合に個性が生まれて、それが魅力になっていると思います。
ー 今回選べるようにした建具を教えてください。
清水さん:リビング・トイレの扉の色、キッチンのシート、襖の柄、畳の縁、床材を選んでもらえるようにしました。
今回お話を伺ったのは、4月に韓国から来たばかりの大学1回生オ・クォニョンさん(左)、同じく韓国出身の大学院3年生チャン・ジョジュンさん(中央)、中国出身の大学院1回生バ・コウケンさん(右)
次にお話を伺ったのは、神戸大学の学生専用ルームシェア物件“鶴甲ハウス”で暮らす学生さんたち。
現在5人が入居していて満室。全員留学生で、出身国は韓国・中国・クェートとバラエティ豊か。
ー 一緒に住んでみてどうですか?
チャンさん:僕は鶴甲団地の別の棟で2年間暮らしていたのですが、ひとりで暮らすには寂しかったですね。ファミリーで暮らすのにはいい場所だと思います。専攻が“共生社会のための教育”ということもあり、ルームシェア物件に移って来ました。
オさん:韓国に住んでいる時は周囲が建物だけだったので、緑豊かで海も見える鶴甲団地での生活を楽しんでいます。
バさん:神戸は街がきれいだし、人がオープンなのでコミュニケーションしやすいです。
鶴甲団地は六甲山の山際に位置するため、目と鼻の先が山。この日は山に雲がかかっていた。
ルームシェア入居者が気軽に集まれるウッドデッキ。バースデーパーティーやチヂミパーティーを開催するなど交流の場として機能している。
チャンさん:このウッドデッキからは桜がよく見えるので、お花見をしたいですね。
清水:いいですね!お花見イベントは定番にしたい。
広々としたシェアキッチン
ルームシェア物件の図面
「入居者の高齢化と空室が問題になっている団地は、おこのみ賃貸やルームシェアなど若い入居者が集まるような物件を企画し、住人の入れ替わりを生みだしていくのが理想」と語る、神戸すまいまちづくり公社の山本さん。現在、鶴甲団地では「おこのみ賃貸やルームシェア物件ができたことで、30-40代の入居者が増えて来ている」そうだ。
また、フロッグハウス代表の清水さんは「おこのみ賃貸や鶴甲ハウスが混在する鶴甲団地は、団地再生のモデルケースに成り得る素材だと考えています」と語る。「団地と言えば『家族4人暮らし』の代名詞でしたが、おこのみ賃貸ではふたり暮らしやシングルの方も多くみられる」とのこと。
おこのみ賃貸と学生専用のルームシェア物件“鶴甲ハウス”によって、団地の様子が変わり始めている。
フロッグハウスは、鶴甲団地で6件目のおこのみ賃貸を施行中とのこと。続報に注目したい。
関連サイト:フロッグハウス おこのみ賃貸
撮影・執筆=則直 建都(8枚目の写真)
神戸市灘区の鶴甲団地(昨年冬の様子)