古い団地×スクラップ寸前の車体。
みんなが楽しんでつくった究極のリユース空間
古い団地やマンションを自分らしくリノベーションして暮らす。
その醍醐味は、「好きなものに囲まれる」だけでなく、古いものをおもしろくいかし、その価値をつくっていくことにもあるのではないでしょうか。
今回訪れたのは、そんな楽しみ方を最大限に求めてつくられたお宅。玄関を入ってリビングへの扉をのぞくと、え……!?これはもう、誰もがびっくりせずにはいられません。
そう、居住空間のど真ん中に、車があるのです。
事前に「車のボディが置いてある」という情報を聞いていても、実際に目の前にするとその存在感にただただ、圧倒されてしまいました。
こんな奇想天外なアイデアを実現したのは、明石市の団地をリノベーションして妻と子どもと暮らす施主のOさん。家づくりのお話をうかがってきました。
住所:兵庫県明石市
スタイル:団地リノベーション(71.82㎡、購入時築40年)
費用:約1150万円(物件購入約650万円、リノベーション約500万円)
家族構成:夫婦(30代)と子ども(0歳)
フロッグハウス担当者:清水大介
“趣味”でリノベーション物件を運営
明石市にある大窪住宅は、JR大久保駅から徒歩7〜8分ほど。日当たりもよく、魅力的な物件です。
実はOさん、お勤めをしながら“趣味”で中古物件をリノベーションし賃貸管理を楽しんでいる、ちょっと変わった肩書きの持ち主。この物件もいずれは賃貸物件として運営するつもりで購入・リノベーションを行いました。購入時にローンを組んだため、返済が終わるまでは家族でここに暮らす予定だといいます。
Oさん)以前もフロッグさんに、運営する賃貸物件のリノベーションの依頼をしました。前回の物件は男の人が好きそうなアレンジで、結構いい感じにできたんです。配管を使って階段をつくっていただいたりとか。テレビでも紹介されたんですよ。
そんなOさんがフロッグハウスと出会ったのは、フロッグハウスが運営する「おこのみ賃貸」の見学に訪れたのがきっかけ。「趣味だからこそやりたいことができる」と話すOさんと、「施主さんのやりたいことを全部かなえたい」というスタンスのフロッグハウスとの相性は、言わずもがな、バッチリだったようです。
Oさん)資料をまとめて「こういうのやりたいんです」ってプレゼンして、清水さんが「おもしろい!」って言ってくれたら「やりましょう」っていう感じです。やりたいこともすぐにわかってもらえるし、私が普通のことを依頼しないのもわかってらっしゃるので(笑)、話がしやすいです
ファミリー層を意識した内装
今回の物件をリノベーションするにあたり、Oさんがターゲットに設定したのは「ファミリー層」。一人暮らしの男性をイメージし自身の趣味を盛り込んだ前回とは異なり、女性に好まれ、家族で暮らしやすい要素を意識して取り入れました。
印象的なのは色づかいです。全体的に、明るい気分になれる爽やかなブルー系を採用しました。
(玄関ホールの壁は明るいエメラルドグリーン。リゾートへ旅行に来たような気分です。)
(玄関の内窓からはキッチンが見えます。キッチンの色塗りや有効ボードを貼る作業はOさんがDIYで行いました)
ファミリーで住むのにうれしいのは、元々3LDKだった間取りの壁をほとんど取っ払ってワンルーム仕様にしたところ。
(柱は残るものの、居室の壁をなくしワンルーム仕様に)
壁がないことで全体が見渡せるので家族がどこにいるかわかりやすく、声も届きやすいというメリットがあります。現在は夫婦で育休を取得し、生まれたばかりの子どもをこの家で育てるOさん一家の生活も、前の家と比べて大きな変化があったそうです。
Oさん)前の家では夫婦が別々の部屋にいることが多かったんですけど、今はずっと一緒にいられるのでライフスタイルが大きく変わったと思いますね。
子どもの泣き声にもすぐ気付けるし、お互いの顔も見えるから「ちょっと休んだら?」と声かけもしやすい。奥さまも「連携がとりやすく、楽しく育児ができます」とのこと。
(リビングでは壁にプロジェクターを投影。夫婦で映画などを楽しんでいるそうです)
(現在はリビングにキャビネットを設置し、Oさんが好きなオブジェ類がズラリ。備え付け収納は最小限にし、「住む人が好きな家具を置く方がいい」というのがOさんの考え。)
スクラップ寸前の車体を救出
そして、この家を語る上で欠かせないのが、ビートルの車体。実はこれ、最初から設置する予定ではなかったそう。
Oさん)最初は「浴室をもっと広げたい」と話していましたが、防水面で実現が難しくなり、もう一度練り直している時に、この車に出会ったんです。私自身もビートルに乗っているんですが、いつも行く整備工場にスクラップ予定の車があったので、「よし、もらってなんかつくろう!」と、いただいてきました。好きな車が家にあったらインパクトもあるし、おもしろいかなと思って。
家の中に中古車の車体を置くという提案には、清水さんも驚いたといいますが、すぐに「管理組合に聞いてみましょう」と、耐荷重の確認や搬入の申請に動いてくれたそうです。
(搬入業者も慣れない中でのクレーンによる搬入。近所の人も見物していたとか。)
パーツごとに搬入した後、室内で大工さんが組み立てや造作を行いました。中にはコンセントも設置し、モニターをつないで映画を観ながら寛ぐこともできるスペースに。
(フロント側にモニターを設置できるように配線。奥の赤いソファーに座って寛ぐことができます)
(タイヤ部分は本棚として活用。本にぴったりの高さです。)
車体を配置したのは、東側のワークスペースと西側の就寝スペースのちょうど真ん中あたり。どちら側の壁を見てもリゾート気分を楽しめるよう、東には昼間の、西には夕陽の海の風景の壁紙を選びました。
(こうして見ると、本当に夕陽の中をドライブしているよう……)
この車体は、もちろん賃貸物件として運営する際にも家の一部として設置する予定。寛ぎスペース、ベッド、子どものプレイスペースなど、住む人次第でさまざまな使い方ができるよう、余白を持たせています。
みんなが楽しんでつくったリユース空間
ともすれば「そんなことできません」と一蹴されてしまうような「団地の中に車を置く」というアイデア。今回、これが実現した背景には、たくさんの「おもしろがる人たち」の存在がありました。
Oさん)フロッグさんは、やりたいことを言えば本当にちゃんと考えてくれて、実現もしてくれるんです。よっぽど「こんなん無理やろ」「ハハハ」と笑って済まされそうなことでも、とりあえず投げてみると、おもしろく何とでもええようにしてくれます。お互いに楽しんで打ち合わせができるので、すごくやりやすいんです。
今回のアイデアを楽しんでいたのは、関わった業者の人たちも。車体の組み立てや造作を担当したのは、普段から「おもしろい仕事ない?」と聞いてくる大工さんだったそう。関わる人みんなが楽しんでつくりあげた家だからこそ、住む人が気持ち良く暮らせる空間になったのではないでしょうか。
この家のコンセプトを問うたところ、Oさんは意外にもシンプルに、こう答えてくれました。
Oさん)あくまで「リユース」ですね。本当、こんな状態のいい車だったので、そのままスクラップするなんて絶対にもったいないので。
「ビーチ」でも「ドライブ」でもなく、「リユース」を楽しむ。その答えには、Oさんが“趣味”で中古リノベーション物件をつくり続ける真髄のようなものが見えた気がします。
古い団地の一室と、スクラップ寸前のビートル。これらを組み合わせることでそれぞれのリユース価値がぐっと高まるーー。家という箱だけでなく、そこに何を掛け合わせていくのか。それこそが、リノベーションで「古いものをおもしろくいかす」という価値をつくっていくということなのだな、と強く感じました。
Oさんは現在、新たに一戸建て物件のリノベーションを進めているところだそう。次はどんなアイデアが実現されるのでしょうか。楽しみに待ちたいと思います。
<文:村崎恭子>